公益財団法人日弁連法務研究財団では、平成27年2月28日に御逝去されました元最高裁判所判事・弁護士滝井繁男先生の遺言に基づく活動の一環として、「滝井繁男行政争訟奨励賞」を設置し、行政争訟の活性化の実現のため、優れた研究や顕著なる功績を残した方又は団体を表彰しております。
このたび、令和5年度「滝井繁男行政争訟奨励賞」の受賞者について、下記のとおり決定しましたので、お知らせいたします。
第1 令和5年度「滝井繁男行政争訟奨励賞」受賞者
- 研究部門 受賞者なし
- 実務部門 岩沼市議会出席停止処分取消事件弁護団(代表 十河弘弁護士)
第2 受賞理由
1. 研究部門 受賞者なし
2.実務部門 岩沼市議会出席停止処分取消事件弁護団(代表 十河弘弁護士)
本弁護団が担当した岩沼市議会出席停止処分取消事件は、宮城県岩沼市議会議員であった原告が受けた23日間の出席停止処分について、その取消しを求めるとともに減額された議員報酬の支払を求めた事案である。
地方議会議員の出席停止処分については、昭和35年10月19日の最高裁大法廷判決において、議会の内部規律の問題として、司法審査の対象とならないとされていた。本件についても、一審仙台地裁判決は、昭和35年大法廷判決に従い、本案審理をせずに訴え自体を不適法として却下した。弁護団は、控訴審の審理において、議会における濫用的懲罰の動機と市議会の実態を正確に理解してもらうことが本案審理への牽引力になると考え、第一回期日の前に陳述書等、人証以外の証拠を全て提出するなどの努力をし、その結果、控訴審仙台高裁は、議員報酬の減額につながるような場合には司法審査の対象となるとして、仙台地裁に差し戻す判決をした。
これに対して、岩沼市は、平成30年9月、上告及び上告受理申立てをした。本弁護団は、早期に答弁書を提出する方針を立て、昭和35年最判の判例変更を促すために、一審で提出していた学者の意見書に加え、二人の学者の意見書を提出する等の努力を行った。その結果、最高裁大法廷は、令和2年11月25日、昭和35年大法廷判決を変更し、出席停止の懲罰に対する取消訴訟と議員報酬の支払請求訴訟を適法な訴えと認め、上告を棄却する判決をした。
この大法廷判決は、昭和35年以来、司法権の範囲外とされてきた出席停止処分が司法審査の対象となることを明確にした点で、大きな意義がある。恣意的に行われる可能性があることも指摘されていた議員に対する出席停止の懲罰に対して、司法審査の光を当てるとともに、従来、部分社会の法理の名の下に、司法権の範囲外とされてきた大学や政党などの内部紛争に対する審理の在り方についての影響を及ぼす可能性がある点でも、大きな意義を有するものといえる。
さらに、差戻し審においても、本弁護団は、懲罰決議までの事実経過を精密に主張立証するなど精力的な訴訟活動を行い、令和5年3月14日、仙台地裁は、出席停止の懲戒処分が裁量権の濫用であるとして処分を取り消し、議員報酬の支払を認める判決をし、この判決は一審で確定した。
弁護団は、当初は、先例である昭和35年大法廷判決の射程が本件事案には及ばないという方向を模索したが、提訴後に得た意見書などの検討を通じて、明確に判例変更をターゲットとするようになったとのことである。その結果、従来、司法の範囲外に置かれていた地方議会における多数決の濫用について、司法審査の対象とする最高裁の判例変更を勝ち取るだけでなく、さらに裁量権の濫用を認め、請求を認容した差戻し審判決を勝ち取ったものである。以上により、本弁護団は、本賞の受賞対象である「行政争訟等に関する法律実務において、従前の判例や取扱いの変更を勝ち取るなど、法律実務の改善に顕著なる功績を残し、行政争訟等の発展と国民の権利救済に寄与したと認められる者又は団体」に該当する。